「Xscape」: NYタイムズ紙のレビュー

マイケル・ジャクソンのアルバム「Xscape」は、世界中が嘆き悲しんだ、おなじみのゴーストの声を中心に回っている。この声は空中を飛び、しなやかで、優しく気遣い、陽気で、そしてパーカッションのようだ。そして急速に緊張感を増し、かき乱され、荒れ果て、つらそうな声へと変化する。ジャクソンの声はデジタルの形をした貴重な形見である。すなわち、多くの曲で、それはジャクソンが自ら聴いた最も新しい曲しか使われていないのだ。

「Xscape」は生身のマイケル・ジャクソンである。きらきら光る現代のテクノロジーに包まれた、誰もがすぐそれとわかるあの男が遺したものだ。声、言葉、そしてメロディー。「Xscape」のそれらはジャクソンだ。残りのものはそれらを中心にして作られている。血の通ったオリジナル部分が一部主張しているが、しかし、それは新しいメカニズムと切っても切れないものだ。

マイケル・ジャクソンが2009年に計画されていた50回のショーのリハーサルとパフォーマンスを何とかこなしていれば、彼は「Xscape」を作ったであろう。そのことに異存がある者はいない。「マイケル・ジャクソンの正典・・・生前の彼が監督し形にしたアルバム、パフォーマンス、ショートフィルム・・・は完結している」と「Xscape」のライナーノーツには書かれている。彼は2009年6月25日に亡くなった。最終リハーサルのさなかで、睡眠補助として使用していた麻酔薬プロポフォールの過剰投与のためであった。

比較的最近の曲も含まれていた2010年リリースの「Michael」とは異なり、「Xscape」には、2001年の最後のスタジオアルバム「Invincible」後にジャクソンが書いたものは収録されていない。マイケル・ジャクソン・エステートはアーカイブを入念に発掘しつづけていたが、どんな断片でも復活させうるものであることが明らかとなった。「Xscape」の収録8曲は、着手したのは1983年から1999年までのもので、その一部は2000年代に再びジャクソンによって手が加えられたものだ。

ライナーノーツの無粋な言葉を借りれば、「Xscape」に加えられた仕事とは、曲を「現代化」することであった。すなわち、2014年現在のポップ音楽のマーケットやラジオの流行りに合わせるということだ。そのために、アルバムの制作過程では、ジャクソンのボーカルが抽出され・・・ジャクソンは一度に何度もレコーディングし、プロデューサーらに選択肢を用意していたことは有名だ・・・新しいアレンジが施された。ヒップホップやダンス・ミュージックのプロデューサーたちがリミックスを作る時に使うアカペラのトラックのように、彼の歌を扱ったのである。大資本の投下の賭けである。「Xscape」は、エステートとソニー・ミュージックとの7年2億5000万ドルの契約から生まれた最新作なのだ。

意図してなのかどうか、「Xscape」は痛烈なストーリーをなぞっている。すなわち、最高のロマンスから、搾取、裏切り、そして脱出したいという必死の願いである。最初は、ハッピーなジャクソンがささやく「Love Never Felt So Good」だ。共作者ポール・アンカが弾くゴスペル風のピアノ・コードが繰り返される。暖かで美しい調べ。これはアルバムを紹介するシングルで、ジョン・マクレーンによるストリング・バージョンと、ジャスティン・ティンバーレイクを起用した復活ディスコ調のティンバランドのバージョンがあり、ヴァースを取り合っている。「Slave to the Rhythm」(グレイス・ジョーンズの歌ではない)と「Do You Know Where Your Children Are」は、女性や少女から搾取することについての懸念の歌だ。「Xscape」がアルバムを締めくくるころ、失われた関係やメディア、"システム"からのプレッシャーについて歌うジャクソンの声は、荒涼とした、ざらつきのある、深い呼吸のスタッカート・モードへと移行している。

このアルバムのデラックス・バージョンには、同じ曲の、ジャクソン自身が取り組んでいたデモが収録されており、興味深い前後の比較、ということになっている。明らかにまだ手をつけ始めたばかりという曲もある。「Love Never Felt So Good」にはピアノとボーカルとフィンガー・スナップしかない。他の曲は完成に近いようだ(ジャクソンは未完成音源を繰り返し手直ししていたため、デモ音源がどの程度の完成度なのか知るのは困難である)。「Xscape」のための曲の選別は20曲以上の未発表曲が対象となった。ボーカルが最後まであること、ジャクソンが価値ありと見なしていた痕跡がある、というのが条件だった。だが、ジャクソンは亡くなっているので元々の意図はわからない。残されているのは音だけなのだ。

「Xscape」がジャクソンの音楽面での遺産を堕落させているように聞こえるなら・・・・よろしい、それははっきりとは言えない。しかし、誰に聞いてもこう答えるはずだ。つまり、ジャクソンはヒットを作り続けたかっただろう、自分の音楽を最先端にする努力を続けただろう、バック・トラックのやり直しもあっただろうと。(公に向けての発信をパーフェクトにしようと努力していたアーティストとして、彼は手を入れられたことよりも未完成のデモ音源を公表したことに怒るかもしれないが)。それにジャクソンは、新しいアルバム用に古い素材を発掘する唯一のソングライターというわけでは決してない。

現在のR&Bは、ファレルのようなプロデューサーによるレトロサウンドを使ったサウンドも、エレクトリックR&Bの脆い作りのものも許容する。そしてジャクソンは貯めていた音源をそのどちらかの方向にプッシュしていた可能性もあるし、全く別の方向だったかもしれない。デジタル全盛の今、リリースされるまでは完成とはならない。そして、その後もリミックスすることもできるのである。

「Xscape」のエグゼクティブ・プロデューサーでほとんどの曲の実質的プロデューサーはティンバランドだ。価値ある選択だったのは、マクレーン(エステートのマネージャー)、スターゲイト、ロドニー・ジャーキンスが曲ごとに起用されていることである。ロドニー・ジャーキンスは、1999年にジャクソンとともに取りかかった「Xscape」を徹底的に改良した。新しいバージョンのために、彼はベタな脱獄風イントロを取り除き、ビートに重さと刻み感を加えると同時に、ストリングスとホーンも加えた。デモに比べより一層装飾を加え、ブリッジ部のムードを変えた。ジャクソンが不気味に「When I go, this world won’t bother me no more」と歌うパートだ。デモではブリッジはそのままグルーヴに乗るのだが、新しいバージョンでは、教会風の楽園のようなコーラスであり、ハーモニーとリッチなストリングスのつかの間の避難場所という感じである。

ティンバランドによる転換は見事だ。結婚と仕事に囚われた女性の歌「Slave to the Rhythm」では、デモの機械的なビートを緊張感のあるダブルテンポの連打に変更している。このビートはボーカルに反して飛び跳ねており、ジャクソンの突き上げるような不安をよりドラマチックなものとしている。妻を寝取られた夫への奇妙な謝罪「Chicago」は、デモのキーボードのコードを、チューバのようなベース音と舞い上がる高音とによる対位旋律に置き換えている。ティンバランドは「Do You Know Where Your Children Are」の部分の元々のシンセサイザーのベースラインを捨て去り、上へ下へと飛び跳ねる、より風変わりな、だが人目を引く音をひねり出した。だが、ティンバランドはジャクソンの傑作「Wanna Be Startin’ Somethin」を越えることはできなかった。

ノルウェーのプロデュース・チーム、スターゲイトはアメリカの「A Horse With No Name」を元にした「A Place With No Name」にパワーを与えた。ミステリアスなユートピアを発見したが家族の元に戻るために泣く泣くその場を後にするとジャクソンが歌うこの歌は、アメリカのギター・コードを使ったシンプルなデモであった。スターゲイトはギターをキーボードのリフに取り換えた。「The Way You Make Me Feel」に非常に近いもので、彼らのダンス・ビートは不安が増すジャクソンのボーカルを楽しんでいる。

「Blue Gangsta」のデモで意図されていたビッグ・バンドのタンゴのように、ジャクソンのアイディアをある種取り除いた場合もあるものの、「Xscape」はこれらの古い曲に磨きをかけている。そしてジャクソンの声・・・リミックスで故意に前面に押し出されている・・・は、近年の彼のアルバムのそれに比べてさらに鮮やかに、そして処理が施された感は少なくなっている。彼がそれで大喜びしているかもしれないし、何かを懇願しているかもしれない、あるいは文句を言い、叫んでいるかもしれないが。

だが、なぜジャクソンが「Xscape」に収録された曲たちをしまっておいたのかは明らかだ。これらの曲は完成一歩手前であり、リリースレベルの水準には少し足りない、あるいはどこかもっといいところで使おうとしていたアイディアのサンプルといった感じである。「Chicago」は、「Billie Jean」や「Dirty Diana」といった、彼女が僕に悪いことをした的な曲の中では影が薄い。「Don’t Stop ’Til You Get Enough」のような初期の世界最高の曲の中から後年の選曲が厳しくなったジャクソンの目にかなった大作「Xscape」でさえ、基本的には「Scream」のゆがんだベースと深い妄想症の派生である。

ジャクソンの死後を取り仕切る者たちは、彼が遺したものに対して豊富な知識を有し、また深く理解している。しかし、すべては懐古的だ。マイケル・ジャクソンの水準に達していないものでも他のミュージシャンにとっては名誉なものかもしれない。しかし、ジャクソンは自分自身が競争相手だった。そしてエステートのプロジェクトを見れば、彼のベストの作品は生前にリリースされたものであることが示唆されている。アーカイブの管理者やプロデューサーたちはジャクソンのスタイルを再現する事も、「現代化」することもできる。だが、どのような手段をもってしても、彼を生き返らせることはできないのである。

ソース:New York Times / michaeljackson.com
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